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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)501号 判決 1957年2月28日

控訴人(附帯被控訴人) 大日本不動産株式会社

被控訴人(附帯控訴人) 新納善一

主文

一、原判決を左のとおり変更する。

二、控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)は被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)に対し東京都豊島区雑司ケ谷二丁目四百六十番地の一所在、家屋番号同町八十六番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十四坪五合二階坪八坪二合に対する。

(1)  東京法務局板橋出張所昭和二十四年七月七日受付第七一八〇号根抵当権設定登記、

(2)  同出張所同日受付第七一八一号所有権移転請求権保全の仮登記、

(3)  同出張所昭和二十六年一月十日受付第一八七号所有権取得登記、

の各抹消登記手続をせよ。

三、控訴人は被控訴人に対し金八万九千六百九十円二十四銭及びこれに対する昭和二十七年十月二十二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四、控訴人の被控訴人に対する東京法務局所属公証人長谷川常太郎作成第八万八千二百七十六号代物弁済付抵当権設定金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基く強制執行はこれを許さない。

五、被控訴人のその余の請求(附帯控訴の分を含む)を棄却する。

六、訴訟費用は第一、二審を通じ(附帯控訴費用も含む)て控訴人の負担とする。

七、本判決は第三項に限り被控訴人において金二万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、附帯控訴について附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決並びに附帯控訴として、「附帯被控訴人の附帯控訴人に対する東京法務局所属公証人長谷川常太郎作成第八万八千二百七十六号代物弁済付抵当権設定金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基く強制執行はこれを許さない。附帯被控訴人は附帯控訴人に対し金八万九千六百九十円九十銭及びこれに対する昭和二十七年十月二十二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、

一、原判決事実摘示(三)の末尾に「以上合計金二十万三千五百円を支払つた」とあるのに続いて、「ほかに控訴人主張の警視庁生活相談係第六席の斡旋による示談が成立したので、さらに被控訴人は

(ヨ) 昭和二十六年六月一日 一万円

(タ) 同年 十月三日 二百円

を支払い、結局被控訴人から控訴人に対して支払つた金額は合計金二十一万三千七百円に達した。」と追加補充する。

二、原判決事実摘示(四)(6) の中程に「そして被告が支払をうけたこの千九百二十二円、及び前記(ト)、(チ)、(リ)、(ヌ)、(ル)、(オ)、(ワ)、(カ)、の合計金十一万三千六百二十二円」とある右「(ワ)、(カ)、」の次に「(ヨ)、(タ)、」と追加し、右「金十一万三千六百二十二円」を「十二万三千八百二十二円」と訂正する。

三、原判決事実摘示(五)(6) の残元金の内入金額「四千九百五十七円」とあるのを「四千九百五十九円」と訂正する。

四、原判決事実摘示(五)(7) の記載全部を左のとおり訂正する。

「(7) 昭和二十五年四月二十七日支払つた四千円は残元金三万千三百九十七円に対する昭和二十五年二月七日から五月六日までの三ケ月分の利息一万四千百三十円の内入金として支払つたこととなり差引利息延滞額は一万百三十円である。」

五、原判決事実摘示(五)(10)の中程に「前記(ル)、(オ)、(ワ)、(カ)、の合計金六万千四百三十六円」とある右「(ワ)、(カ)、」の次に「(ヨ)、(タ)、」と追加し、右「合計金六万千四百三十六円」を「合計金七万千六百三十六円」と訂正する。

六、原判決事実摘示(八)の権利の濫用に関する仮定的主張は全部撤回する。

七、要するに、被控訴人の支払つた前記(ヨ)、(タ)の二口合計金一万二百円を加えるときは、原判決の採つた計算方法によつても、被控訴人が控訴人に対し有する過払金は合計金八万九千八百九十円九十銭となるので右金額から金二百円を控除した金八万九千六百九十円九十銭及びこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和二十七年十月二十二日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を本件附帯控訴として請求する。

八、控訴人は昭和二十五年四月七日本件公正証書の執行力ある正本に基いて被控訴人所有の有体動産に対し強制執行をした。控訴人は本件公正証書表示の債務はすでに完済せられているのであるから、執行吏に対する右強制執行の委任を直ちに取り下げるべきであるのにこれを放置していたため、被控訴人は昭和三十一年四月二十三日頃東京地方裁判所執行吏役場から同年五月九日午前十時差押物件を競売する旨の通知を受けた。よつて被控訴人としては控訴人のため将来右公正証書によつて強制執行を受ける不安があるので、あらためて右公正証書の執行力の排除を求めるものである。

と述べ、控訴代理人において、本件公正証書に基く強制執行は昭和三十一年七月すでに解放したので、右公正証書の執行力の排除を求める被控訴人の請求は失当であると述べたほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、新たに、被控訴代理人において、甲第二十三、第二十四号証を提出し、当審証人新納静子の証言(第一、二回)、当審における被控訴本人尋問の結果を援用し、乙第九号証、第十五号証の成立は不知、同第十号証の三は宛名の記載部分の成立は否認するが、その他の部分の成立は認める、同第十一号証の一は「和解条項」以下の記載部分の成立は否認するが、その他の部分の成立は認める、同第十八号証の一、二は現在の状態ににおける控訴会社の写真であることは認めるが、本件消費貸借成立当時のものではない、その他の当審において新たに提出せられた乙各号証はいずれも成立を認めると述べ、控訴代理人において、乙第九号証、第十号証の一ないし三、第十一ないし第十三号証の各一、二、第十四ないし第十七号証、第十八号証の一、二を提出し、当審証人佐藤昶一〇証言、当審における控訴会社代表者本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、甲第二十三号証の成立は認めるが、同第二十四号証の成立は不知と述べたほか、原判決摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

(一)、被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)が中央郵便局に勤務する公務員で、控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)が金融業を営む株式会社であること、被控訴人とその妻静子が昭和二十四年七月七日連帯して控訴人から金十万円を借り受ける契約をし、被控訴人所有にかかる主文掲記の本件家屋について控訴人のため、債権極度額金十万円、契約期間の定めなく利息借用の都度定むという根抵当権設定契約を締結し、被控訴人が弁済期に元利金を返済しないときは、控訴人の一方的通告によつて代物弁済として右家屋の所有権を控訴人に移転せしむべき旨の条件附代物弁済契約を結び、同年七月八日東京法務局所属公証人長谷川常太郎に委嘱して第八万八千二百七十六号代物弁済付抵当権設定金銭消費貸借契約公正証書を作成せしめたこと、控訴人が右家屋について東京法務局板橋出張所昭和二十四年七月七日受付第七一八〇号根抵当権設定登記及び同第七一八一号所有権移転請求権保全の仮登記を経たこと、さらに同出張所昭和二十六年一月十日受付第一八七号を以て前記代物弁済による所有権取得登記を経たことは、いずれも当事者間に争がない。

(二)、原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言並びに原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果によれば、本件消費貸借契約において利息は一ケ月一割五分の約定であつたことを認めることができる。控訴人は利息は日歩五十銭の約定であつた旨主張するけれども、この点に関する原審及び当審における控訴会社代表者本人の供述は前掲証拠に照して信用することができない。その他に右認定を覆して控訴人の右主張事実を認めるに足る証拠は存在しない。

(三)、そして成立に争のない甲第一、二号証と原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言並びに原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果を綜合すれば、本件消費貸借契約においては、弁済期は一応昭和二十四年八月七日と定められたのであるが、被控訴人において月一割五分の割合による約定利息を毎月前払すれば、右弁済期は貸借の日から向う一年間延期する約定であつて、被控訴人はその後後記のとおり利息の支払をして、弁済期はその都度延期されてきたことを認めることができるのであつて、右認定を左右するに足る証拠は他に存在しない。

(四)、ところで、被控訴人は「控訴人は元金の交付に際し一ケ月分の一割五分の利息金一万五千円、手数料一万円計二万五千円を差し引き金七万五千円しか被控訴人に交付しなかつたから、本件消費貸借は金七万五千円の限度で成立したにすぎない」旨主張するので検討する。原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言並びに原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果によれば、控訴会社代表者松岡源之真は本件消費貸借による元金の交付に当つて、貸金十万円のうちから手数料名義で金一万円、貸付の日たる昭和二十四年七月七日から同年八月六日まで一ケ月分の約定利率による一割五分の利息として金一万五千円計金二万五千円を天引し、残額七万五千円だけしか現実に交付しなかつたことを認めることができる。控訴人は被控訴人に現実に交付したのは金十万円であると主張する。成立に争のない乙第一号証(被控訴人及びその妻静子が連名で控訴人宛に差し入れた領収証)には「契約に基く借用金全額を領収した」旨の記載が存するけれども、原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言並びに原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果によれば、右乙第一号証の領収証は控訴会社代表者松岡源之真に求められるまゝ、事実に符合しないことを記載して差し入れたことが窺えられるので、右乙号証は前認定を覆して控訴人の右主張を認める資料となしがたい。なお原審並びに当審(第一回)における控訴会社代表者松岡源之真の供述中には、控訴人は被控訴人に対して金十万円を現実に交付したもので天引はしていない旨の供述があり、また同人は当審における第一回尋問の際「控訴会社と同一ビル内に隣接して金融斡旋等を営業とする訴外築山正美の主宰する中央相談所なるものがあつて、本件貸借は右中央相談所の仲介で成立したもので、手数料は右中央相談所が受領し控訴人はこれを天引していない。」との趣旨の供述をしており、乙第十号証の三(本件貸借に当つて被控訴人が差し入れた契約書)の宛名が中央相談所と記載されていることは右松岡源之真の供述の真実性を裏付けるかの感がないわけではないけれども、当審証人新納静子の証言(第一、二回)及び乙第十号証の三の記載を仔細に検討すれば、本件貸借は被控訴人及びその妻が直接控訴会社代表者松岡源之真と面接して申込をしその承諾を得て成立したもので、訴外築山正美の主宰する中央相談所の仲介斡旋を受けたものでなく、前掲乙第十号証の三の宛名は当初「大日本不動産株式会社取締役松岡源之真」と記載されていたのであるが、本訴提起後控訴人において被控訴人夫婦の承諾もなく不知の間に「中央相談所」と書き換えたものであることを推認することができるので、右乙号証は前認定の妨げとなるものでなく、控訴会社代表者松岡源之真の前掲供述部分は信用することができない。その他に右認定を覆して控訴人の右主張事実を認めるに足る確証は存しないので、右主張は採用することができない。以上認定の事実によれば、手数料名義で控訴人が天引した金一万円については、本件消費貸借に適用せられる旧利息制限法第四条の規定によつて裁判上無効であり、この部分については本件消費貸借はその効力を生じないものといわなければならない。また一ケ月一割五分の割合による金一万五千円の天引部分については、同法所定の制限利率を超過しているのであるから、その超過部分についても本件消費貸借の効力を認めることはできない。結局本件消費貸借は元本をXとして、

X = 100000-25000+(X×1/10×1/12)

の方程式によつて算出される金七万五千六百三十円二十五銭(厘以下切捨)の限度においてのみ有効に成立したものと認めなければならない。

(五)、被控訴人は控訴人に対し本件債務の弁済として左記(イ)ないし(タ)の合計金二十一万三千七百円を支払つたと主張する。

(イ)  昭和二十四年八月二十二日 一万五千円

(ロ)  同年九月六日       一万五千円

(ハ)  同年十月七日       三万円及び一万五百円

(ニ)  不詳の日         一万五百円

(ホ)  同年十二月十五日     一万五百円

(ヘ)  昭和二十五年一月十八日  一万五百円

(ト)  同年四月二十七日     四千円

(チ)  同年五月十日       二千五百円

(リ)  同年同月二十二日     二万千円

(ヌ)  同年同月二十七日     二万九千円

(ル)  同年同月三十一日     二万円

(ヲ)  同年六月十一日      五千円

(ワ)  同年同月二十九日     一万円

(カ)  同年七月十四日      一万円

(ヨ)  昭和二十六年六月一日   一万円

(タ)  同年十月三日       二百円

控訴人は右のうち(八)の三万円の分と(ト)(リ)(ヌ)(ル)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)についてはその弁済の事実を認め、その他の分については控訴人は弁済の事実を否認するけれども、成立に争のない甲第三ないし第六号証、第八号証、原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言並びに原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第十二、第十三号証、第二十二号証と右証人の証言並びに本人尋問の結果を綜合すれば、控訴人が否認する(イ)(ロ)(ハ)のうち一万五百円(ニ)(ホ)(ヘ)(チ)及び(タ)の分についても、被控訴人主張のとおり本件貸金債務の弁済として被控訴人から控訴人に支払つたことを認めることができる。原審及び当審(第一回)における控訴会社代表者松岡源之真の供述中右認定に添わない部分は信用しない。その他に右認定を左右するに足る証拠は存在しない。

(六)、次に右各支払金の弁済充当の関係について判断するに、成立に争のない甲第三ないし第六号証、第八号証、第十四ないし第二十一号証、原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言並びに原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第十三号証と右証人の証言並びに本人尋問の結果を綜合すれば、前記(イ)の分は昭和二十四年八月七日から同年九月六日まで一ケ月一割五分の割合による約定利息、(ロ)の分は同年九月七日から同年十月六日までの同様の割合による約定利息、(ハ)の三万円の分は控訴人同意のもとに元金の内入として、また(ハ)の一万五百円の分は同年十月七日から同年十一月六日までの同様の割合による約定利息、(ニ)の分は同年十一月七日から同年十二月六日までの同様の割合による約定利息、(ホ)の分は同年十二月七日から昭和二十五年一月六日までの同様の割合による約定利息、(ヘ)の分は同年一月七日から同年二月六日まで同様の割合による約定利息、(ト)、(チ)の分は同年二月七日以降の同様の割合による約定利息の内入、(リ)の分は同年六月六日までの同様の割合による約定利息の残額と剰余は元金の内入、(ヌ)、(ル)の分は元利金の内入、(ヲ)の分は同年六月七日から同年七月六日までの同様の割合による約定利息、(ワ)、(カ)の分は元金の内入としてそれぞれ被控訴人から控訴人に弁済されたものであることを認めることができるのであつて、原審及び当審における控訴会社代表者本人の供述中右認定に添わない部分は信用しがたく、他に右認定を左右するに足る確証は存しない、((ヨ)、(タ)の分について後記計算関係の項において明らかなとおり非債弁済となるので元金として弁済されたものか、又は利息として弁済されたものか判断の必要をみない。)

(七)、ところで、右認定の各弁済は本件消費貸借が元金十万円の全部について有効に成立したことを前提としてなされた計算関係に基くものであることが明らかであるけれども、本件消費貸借は前認定のとおり金七万五千六百三十円二十五銭の限度においてのみ有効に成立したものであるから、右元本額を基礎として計算すべきものであり、その結果被控訴人が約定利息として弁済に供した金額で、現実の約定利息額を超過した部分は特に反対の意思表示の認められない本件においては当然元本に充当せらるべきものと解するのを相当とする。(民法第四百九十一条参照)右の見地に立つて被控訴人の弁済した前記(イ)ないし(タ)の各金員について本件貸借に基く元利金の計算関係を示すと次のとおりとなる。有効に成立した本件貸金元本七五、六三〇円二五銭に対する貸借成立の日から昭和二十四年八月六日までの約定利息は天引により支払済である。

(イ)  の一五、〇〇〇円は、元本七五、六三〇円二五銭に対する昭和二十四年八月七日から同年九月六日まで一ケ月一割五分の割合による約定利息(以下すべて一ケ月一割五分の割合による約定利率による)一一、三四四円五三銭(厘以下切捨以下同じ)に充当し、残余の三、六五五円四七銭は元本七五、六三〇円二五銭に充当して元本残額は七一、九七四円七八銭となり、

(ロ)  の一五、〇〇〇円は、元本残額七一、九七四円七八銭に対する同年九月七日から同年十月六日までの約定利息一〇、七九六円二一銭に充当し、残余の四、二〇三円七九銭は右元本残額に充当して元本残額は六七、七七〇円九九銭となり、

(ハ)  のうち三〇、〇〇〇円の分は、元本内入の合意があつたのであるから元本残額は三七、七七〇円九九銭となり、(ハ)のうち一〇、五〇〇円の分は、右元本残額に対する同年十月七日から同年十一月六日までの約定利息五、六六五円六四銭に充当し、残余の四、八三四円三六銭は右元本残額に充当して元本残額は三二、九三六円六三銭となり、

(ニ)  の一〇、五〇〇円は、元本残額は三二、九三六円六三銭に対する同年十一月七日から同年十二月六日までの約定利息四、九四〇円四九銭に充当し、残余の五、五五九円五一銭は右元本残額に充当して元本残額は二七、三七七円〇二銭となり、

(ホ)  の一〇、五〇〇円は、元本残額二七、三七七円〇二銭に対する同年十二月七日から昭和二十五年一月六日までの約定利息四、一〇六円五五銭に充当し、残余の六、三九三円四五銭は右元本残額に充当して元本残額は二〇、九八三円五七銭となり、

(ヘ)  の一〇、五〇〇円は、元本残額二〇、九八三円五七銭に対する同年一月七日から同年二月六日までの約定利息三、一四七円五三銭に充当し、残余の七、三五二円四七銭は右元本残額に充当して元本残額は一三、六三一円一〇銭となり、

(ト)  の四、〇〇〇円は、元本残額一三、六三一円一〇銭に対する同年二月七日から同年五月六日までの三ケ月分の約定利息六、一三三円九九銭の内入金として充当して、右元本残額のほかに、利息残額は二、一三三円九九銭となり、

(チ)  の二、五〇〇円は、右利息残額に充当し残余の三六六円〇一銭は右元本残額一三、六三一円一〇銭に対する同年五月七日から同年六月六日までの約定利息二、〇四四円六六銭の内入金として充当して、右元本残額のほかに、利息残額は一、六七八円六五銭となり、

(リ)  の二一、〇〇〇円は、右利息残額と元本残額の合計一五、三〇九円七五銭に充当してここに本件消費貸借上の債務は元利とも完済せられ、残余の五、六九〇円二四銭は債務がないのに、被控訴人から控訴人に支払われたものであり、

さらにその後の(ヌ)(ル)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)の分もまた非債弁済たること明らかで、前記(リ)の非債弁済と併せその額は合計金八九、八九〇円二四銭となること計数上明らかである。

(八)、被控訴人は月一割五分の利息の約定は利息制限法に違反し無効であるとして約定利率を制限利率に減縮して計算し、結局被控訴人のなした非債弁済額は合計金十一万三千六百二十二円であると主張して右金員の支払を第一次的請求として求めているので判断するに、利息制限法所定の利率を超過する利息を支払う契約は法律上無効たること言をまたないところであるけれども、債務者が異議を留めないでその支払をしたときは、後日にいたつて債務者は右超過部分の返還を求めることができないものと解するを相当とするから、当事者間においてすでに任意に授受を了した超過利息は今に至つてこれを制限内に引き直して計算すべきものではない。従つて被控訴人主張の右計算方法は採用しがたく、右主張は排斥を免れない。

(九)、そして成立に争のない甲第十号証、原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言、原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果を綜合すれば、被控訴人は控訴会社代表者松岡源之真に対してしばしば元金及び利息の残額を明示するよう懇請したにもかかわらず、右松岡は言を左右にして誠意ある調査回答をせず、ただ漫然と「金を持つてこい、金を持つてくればこのつぎに計算をしておく」などといつて計算関係を明らかにすることなく、被控訴人において金を持つて行かないと差押の挙に出たりするので、被控訴人もやむなくずるずると前示のように(リ)ないし(タ)の支払を続けてきたものであることを認めることができるのであつて、右認定に反する原審及び当審(第一回)における控訴会社代表者の供述は信用することができない。他に右認定を左右するに足る証拠は存在しない。右認定事実に徴すると、被控訴人は本件消費貸借上の債務がすでに完済せられたことを知らないで前示(リ)ないし(タ)の支払をしたものであることが窺われる。

(十)、控訴人は、「本件消費貸借について昭和二十六年四月十三日控訴人と被控訴人間に警視庁生活相談係第六席の斡旋により(イ)被控訴人は金十六万五千円の債務あることを認め、同月末日限り内金十万円を控訴人に支払うこと、(ロ)被控訴人が右(イ)の履行をしたときは控訴人に残金六万五千円の債務を免除し、且つ本件家屋を被控訴人に返還する約定で示談契約が成立したところ、被控訴人はその履行をしなかつたので同年六月一日及び八月三十一日と二回に亘つて右示談契約による支払方法を変更したが、同年六月一日被控訴人は僅かに金一万円を支払つたのみでその余の支払をしなかつた。よつて控訴人は被控訴人に対して今なお金十五万五千円の支払義務がある。」旨主張するので検討を加える。控訴人主張の右示談契約及びその支払方法変更に関する契約成立の事実は、当事者間に争のないところであるが、前認定のとおり右示談契約並びにその支払方法変更に関する契約成立当時においては、被控訴人は本件消費貸借上の債務が元利ともに完済せられて消滅していたものであるのに、このことを全く知らなかつたものであつて、右事実を参酌して原審及び当審(第一回)証人新納静子の証言並びに原審(第一回)及び当審における被控訴本人尋問の結果を綜合して判断すると、右示談契約並びに支払方法変更に関する契約は被控訴人において要素の錯誤に基きなされたものと認められるので、無効であるといわなければらない。よつて控訴人の右主張は採用できない。

(十一)、してみると、控訴人は被控訴人に対して前認定の非債弁済金合計金八万九千八百九十円二十四銭から被控訴人の自認する金二百円を控除した残金八万九千六百九十円二十四銭及びこれに対する本件訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和二十七年十月二十二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務あること明らかであるから、控訴人の本訴金員請求の部分は右限度において正当としてこれを認容すべく、その余は失当として棄却を免れない。

(十二)、次に、本件消費貸借上の債務は弁済によりすでに消滅したこと前説示のとおりであるから、本件建物に対する抵当権も消滅に帰し、控訴人は被控訴人に対し前記根抵当権設定登記並びに所有権移転請求権保全の仮登記を各抹消すべき義務あること明らかであり、また本件消費貸借上の債務の残存することを前提としてなされた前記代物弁済による所有権取得登記は登記原因を欠く無効のものであるから、右所有権取得登記についても控訴人は被控訴人に対して抹消すべき義務あること明らかであつて、右各登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求部分も正当として認容すべきものである。

(十三)、なお被控訴人は当審において新に本件公正証書について執行力の排除を求めているので考えてみる。控訴人が昭和二十五年四月七日本件公正証書の執行力ある正本に基ずいて被控訴人所有の有体動産に対し差押をしたことは、控訴人において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。控訴人は右差押は昭和三十一年七月すでに解放したから右債務名義の執行力の排除を求める被控訴人の請求は失当である旨主張するけれども、被控訴人は単に控訴人のなした具体的な右強制執行の排除を求めるものでなく、本件債務名義の一般的な執行力の排除を求めているものであるから、控訴人のなした差押の解放の有無にかゝわりなく、本件債務名義表示の債務が消滅した本件においては、被控訴人の右執行力の排除を求める請求は理由ありとして認容するのを相当とする。

(十四)、してみれば、原判決は以上の説示によつて明らかなように一部失当に帰するので前説示の限度にこれを変更することとし、また被控訴人の附帯控訴は以上説示の限度において理由があるけれども、その余は失当であるからこれを棄却すべきものと認め、民事訴訟法第三百八十五条、第九十六条、第九十二条、仮執行の宣言について同法第百九十六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 伊藤顕信)

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